唐桃

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序の歌

 盲しいた楽人は周りの村人の手に導かれ、風通しのよい木陰に案内され、乾いた喉を潤した。村人達がもてなしの礼は唄をと頼めば、連れが来るまではとゆったりうなずき、すっかり手ずれた古い五弦の琴を取り出した。
 見えないはずの楽人は西の彼方を眺めるように顔をあげていたが、やがて、彼は歌いだした。


 それは遥か昔、今ではその名前だけが史書に残るある皇帝がおりました。皇帝は、若いうちに先代皇帝であった父とその愛妾であった母をなくし、唯一の身内は年の近い姉、一人だけでした。身内による長年の骨肉の争いから後見となる力のある親戚もなく、彼が即位したときには、皆が国の行く末を心配したものでした。
 しかし、皇帝は代々受け継がれてきた不思議な力に君主として抜きん出た英明さを合わせもち、父皇が失いかけていた国を見事に掌握いたしました。そして、帝国の版図を徐々に広げ、ついには周りの蛮族たちをもたいらげる勢いでした。
 やがて、帝国は東は大陸の海の果てから西は隣の大陸への細い海峡まで、すべてを覆いつくし、皇帝の威光はあまねく大陸中に届いておりました。
 帝国に日の沈む日はないと言われ、寵臣たちに皇帝の御世が絶頂を極めたと言わしめたそのとき、神が嫉妬されたのでしょうか。皇帝の最も信頼していた姉が突然亡くなりました。それは、明るいばかりと思われていた帝国の未来に大きな影を落とし、先行きに暗い予感を感じさせるのでした。
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