GIFT番外編 小さな目 

PREV | NEXT | INDEX

第三の目

「逃げるなって言われても、知らない人と話しちゃだめって、先生に言われてるから」
「え、先生の知り合いなの」
「わかった。わかった。渡すものがあるのね」

 
 最近の二人って、先生達のことだよね。ようやく、元気になってきた。なんだ、おじさん、病気だったって知らなかったの。どうしたのかって。マーテル先生、半年前にね、倒れたんだよ。
 学校でね、畑仕事をしていたときに、マーテル先生が倒れたの。私は側にいなかったけど、すごく、血が出たって友達が言ってた。その前から、気分が悪そうで、たいてい、横になってたんだ。あの日はユアンが用事があって外に行ってたから、代わりにマーテル先生がみんなの面倒をみていてくれた。
 そしたら、急にふらっと倒れて、それっきり起きなかったんだって。次の日、ユアンが戻ってくるまで、目を覚まさなくて、薬屋のおばあさんもだめかも知れないって心配していた。
 
 マーテル先生は二週間くらいしたら、学校に戻ってきたけど、すごく痩せちゃって、顔色もとても悪かった。それに、前はいつでも笑ってたのに、全然、笑顔を見せてくれなくなったの。たまにすごくつらそうにして、部屋で一人で泣いていた。
 ユアンは何をしてたかって言われても、ユアンもそりゃマーテル先生のことを心配してたよ。みんな、心配した。マーテル先生が泣きそうな顔をする度に、ユアンも苦しそうな顔をしてたよ。
 それで、だんだん、マーテル先生が眠れなくなったって言うんだ。空を見て校庭のすみで森の妖精みたいにふらりと立っていた。授業していても、ぼんやり、何も言わなかったりするんだ。
 ユアンがマーテル先生に休もうと言っても、マーテル先生、わかったって頷くだけで、ちっとも休んでいなかった。
 一月くらいしたときかな、ユアンが急に学校を閉じるっと言い出して、マーテル先生と喧嘩した。二人が喧嘩するところを初めて見たの。ユアンはマーテル先生が言うことに反対したことなかったし、マーテル先生は誰にも声をあげたことなんて、なかったのに。
 マーテル先生、最初はユアンに向かって、あなたは何も分かっていないって、大声で言ってたけど、そのうち、ユアンの胸でわあわあと泣いていた。結局、ユアンが学校は二週間だけお休みにするから、その間は私達、子供だけで過ごしてほしいと言った。
 もう、だいぶ前から、マーテル先生を休ませなくっちゃいけないってわかっていたから、誰も文句なんて言わなかったよ。それに、家から通ってきてた子がその話を親にしたら、すぐに町のみんなも助けに来てくれた。町のおばさんたちが交代で食事作りに来てくれたし、いつもはけちな雑貨屋の親父がそりゃたくさんの食べ物や服を持ってきてくれた。町長と教会の人が代わりに授業もやってくれることになった。
 決めたら、ユアンは次の日の朝、マーテル先生と一緒にどこかへ行っちゃった。その後すぐだったかな、マーテル先生の弟のミトスが学校に来てくれて、後はミトスがいろいろと学校のこととかしてくれていた。


 いつ、二人は帰ってきたのかって。そういえば、二週間どころか、二ヶ月くらいいなかったと思う。夏が終わる頃、もどってきた。ずっと、なんとかっていう木の側にいたらしい。
 良くなったかって言われると、わかんない。良くなったような気もするし、前とは同じじゃないかもしれない。
 倒れる前は、マーテル先生、具合が悪そうでもなんだか楽しそうにいろんなことをしていた。それに、これは絶対に絶対に内緒だけど、マーテル先生、赤ちゃんの洋服を作っていた。私だけが知っているんだ。もう少し内緒にしていてねって言われたから、黙っていたの。
 でも、マーテル先生が倒れた後、ユアンがいろいろと学校の裏で燃やしていたのをみちゃった。先生が作っていた小さな服も燃やしていたよ。ユアンが泣いていた。他は泣いているのは見たことがないけどね。
 だから、多分、大人たちも言ってたけど、待っていた赤ちゃんが来なかったんだよ。友達のお母さんは、よくある事だって言っていた。でも、薬屋のおばあさんはたくさん血が出たから、もう、無理かもしれないって。
 大人の噂だからね。本当のことかどうか、分からない。
 だからさ、私はマーテル先生が無理しないように、いろいろ手伝ってあげてるんだ。食事とかさ、服の繕いとか、町のおばさんたちに教えてもらって、少しでも楽できるようにしてあげようと思っている。それにそういうことができれば、学校が出るときに、すぐ手伝いで雇ってもらえるし、計算とかもできるから、宿屋や雑貨屋の手伝いもできるさ。
 

 今の二人はどうかって。ユアンは前とあまり変わらないかな。
 ううん、そんなことないね。前はマーテル先生を一人にしてどこか行くことがあったけど、絶対に側を離れないよ。マーテル先生は少し笑うようになったし、前みたいに一人でこっそり泣いたりしなくなった。
 たまに泣くけど、ちゃんとユアンの隣で泣いているよ。え、何で泣くのかって。うーーん、私達みたいな親なし子の話を聞くとさ、悲しくなっちゃうのだって。そうだよね。私はユアンやマーテル先生に会えたからいいけど、あんないい人達に会えるとは限らないしさ。
 本当は私も赤ちゃんが来るのを見たかった。
 そんなことを言ったら、マーテル先生が泣くから黙っているけど、あの二人が自分達の赤ちゃんを大切にするところを少しだけ見たかった。きっと、ユアンとマーテル先生だから、何も違わないとは思うけど、でも、みんなに待ち望まれる赤ちゃんをさ。私はさ、最初からいらないって捨てられちゃったから、そうじゃない赤ちゃんを抱きたかった。
 いや、あの人たちは私達のことをすごく大切にしてくれてるよ。言ったじゃないか。きっと、あの二人の態度は変わらないって。でも、私が見たかったんだよ。マーテル先生が大好きだから、ユアンにはいつもよくしてもらってるから、あの二人に宝物が来るのをね。ちょっとくらい神様が気配ってくれたって良かったのにね。
 知ってるかって。知ってるよ。ユアンも小さいときは孤児院にいたんだろ。とても素晴らしい友達がいたから、一人じゃなかったから、大人になれたっていつも言ってる。それで、友達は大切にしろってさ。
 でも、本当かな。だって、その大事な友達って見たことがないんだよ。親友が困ってたら、友達って言うのは助けに来るもんだろ。ユアンは何でもできるから、私達と違って、きっと一人でも大丈夫だったんだよ。
 友達の名前を聞いたことがあるかって。そりゃ、耳が腐るほど聞いてるよ。クラトスって言うんだ。マーテル先生はユアンがその話をする度ににっこり笑うのさ。
 何、おじさん、びっくりしているんだい。その人のこと、知っているの。知っているんだったら、伝えてくれないかな。ユアンとマーテル先生はさ、平気なふりしてるけど、友達と会いたがっている。だって、二人ともたまにその名前を口に出した後、寂しそうにするもの。
 それに、ユアンの話を聞いてあげる人が必要だよ。
 これも内緒だけど、私の勘じゃ、マーテル先生はまだ本当は治っていないもの。大人たちが言ってるよ。ユアンがあんなに気をつかっていると、今度はユアンが倒れるって。
 ミトスはどうしたって。おじさん、ミトスも知っているの。ミトスもそれは心配していて、ついこないだまで、学校にいてくれた。けどさ、この前、なんとか言う国の偉い王様の使いがきて、どうしてもあっちに行かなきゃいけないってことで、町を出て行った。そりゃ、行きたくなさそうだったよ。私にまで姉さん達のことを頼むって何度も言ってさ。
 
 なに、おじさん、褒めてくれるの。ありがとう。
 でも当たりまえのことだよ。子供は親のことを心配するもんだろ。ユアンはさ、実の親がいることは忘れるなっていうけど、私の本当の両親はあの二人だよ。
 だから、最年長の私がしっかりして、親に恩返しする番さ。小さな子の面倒とか、勉強とかは、私が見てあげれば、あの二人も楽になるし。
 え、いろいろ知っているって。そりゃ、おじさん、町の人に相談すれば、大人が教えてくれるんだよ。みんな、町中の人が心配してるからね。 さ、こんなところでぼんやりしていられないよ。この洗濯物を干したら、学校にもどらなくっちゃ。


 渡すものってなんだい、おじさん。
 え、渡さなくっていいの。
 学校の場所を知りたいっていうのかい。それなら、こっちだよ。案内するよ。干してからって、洗濯物は後でいいさ。
 だって、あんた、クラトスって言う人なんだろう。さっきから気づいてたよ。背格好がいつもユアンとマーテル先生から聞いているのとそっくりなんだもの。


 ごめん、大人を試すつもりはなかったんだよ。睨まないでよ。
 でも、二人が心配だからね。許しておくれ。
 ちょっと、待ちなよ。あせんないでよ、おじさん。二人は逃げないよ。そんなに速く歩かれちゃ、ついてけないよ。


 心配そうに先を急ぐ大柄な剣士の後を年の割りには小柄な少女がぺちゃくちゃと話しかけながら、小走りについていく。
PREV | NEXT | INDEX
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送