GIFT番外編  小さな目

PREV | NEXT | INDEX

第二の目

「おじさん、ありがとう。たいしたことなかったのに、治してくれて」
「急に出てきたから、びっくりしただけ。もう大丈夫。ねぇ、この犬は何という種類」
「女先生も癒しの術が上手なんだ。でも、こんな擦り傷では術は使ってくれないの」


 私はそこの裏から学校へ通っているんだよ。兄さんも姉さんもあそこの学校に通っていたけど、もう、隣町に働きにいってる。すごく大きな商店に決まってね。父さんも母さんも大喜びなの。
 うん、私は大きくなったら、女先生みたいに、先生してる素敵な人を見つけるんだ。それまでは、学校の先生をしていたい。何が得意って、ユアンは作文を褒めてくれるし、女先生は歌が上手だって言ってくれるの。
 学校の生徒、たくさんいるよ。だって、ユアン、断らないもの。隣町の子とか、もっと遠くの村の子とかも来ているの。
 うちも兄さんの空いた部屋に山向こうの村の子がいるよ。とても小さい子でさ、私より背が低いくせにすごく足が速いの。え、全然、格好よくないよ。ただの友達。だって、その子ったら、私のおさげ、ひっぱって逃げて行くのよ。赤ちゃんみたい。
 格好良いっていったら、二つ上の学年の子はハーフエルフでユアンみたい。だけど、真面目でちょっと恐いっていうか、賢そうで、近寄れない。
 え、そうなのかな。声をかけてみれば違う。うん、そうだね。確かに私も遊んでって言いにくいかもしれない。ほら、邪魔しちゃいけないような気がするのよ。さっき話した山向こうの子はその子と平気で話してるわね。
 ユアンが格好いいって、おかしかないよ。本当に格好いんだってば。おじさん、そこでどうして笑うのかな。ユアンのこと、よくしらないでしょ。だって、ユアンはいろいろと知っているし、いつも、すごく優しいんだよ。
 何を教えてるかって。ユアンはね。算術でしょ。書き方でしょ。歴史っていうのかな、この国の話とか、そんなことを教えてくれる。術、そうね。私は人間だから関係ないけど、ハーフエルフの子にはたまに教えている。でも、みんなに教えてくれるのは、剣術だよ。
 おじさんも剣を使うでしょ。長い剣をぶらさげてるもんね。ユアンも女みたいに髪が長いのに剣術は上手だよ。学校の大きな男の子でも全然叶わない。それどころか、町で一番強い剣術の先生と同じくらいだってみんなが言っている。
 ユアンがどうしてそんなものを教えているかって。剣術のことだよね。それはね、私が学校に上がる前からこの周りでたまに盗賊が出るようになって、学校の卒業生の子が襲われたの。大怪我をしてね。
 死にそうな怪我だったんだって。半年も寝てたって町の人が言ってる。その子は今は町役場にいるんだけど、やられた足、引きずっている。私はね、よく知らないけど、その子のお母さんは毎日泣いてたらしいよ。
 それで、町の大人が大騒ぎして、自警団とか作ったんだよ。そのときに、自分の身を守れるようにならないといけないって、町の大人がユアンに剣術を教えてくれって頼んだだよ。それでユアンが学校で教えてくれることになったの。
 うん、ユアンは普段は決して剣を使わないけど、一回だけ、使ったのを見たことがある。盗賊が学校の側の畑まで来たことがあったんだよ。そのときは、恐かった。一年生の女の子が盗賊に捕まっちゃってね。私はすぐに学校に先生達を呼びにいったの。足ががくがくしたよ。恐くて恐くて……
 そしたら、ユアンがすごく長い見たこともない剣持って、走っていった。もどったら、もう、盗賊はみんな地面に倒れていて、ユアンにやっつけられていた。
 うん、他の子たちが言うにはピカって周りが光ったと思ったら、女の子を捕まえていた盗賊が倒れていて、後はあっという間にユアンがやっつけたらしいよ。
 だから、ね。ユアンって格好いいでしょ。
 マーテルはどうしているかって。女先生のことだよね。女先生は優しいよ。ユアンとすごく仲良しで、母さんはいつもうらやましいって言ってる。何がって、ユアンが女先生に優しいからだよ。うちの父さんはすぐに母さんにガミガミ言ったりするからね。
 ユアンは女先生に怒鳴ったりしないし、女先生は泣いたりなんかしないもの。二人でいるときは、いつもニコニコしている。だからね、姉さんもユアンみたいな男を捕まえるっていつも言ってる。え、やめたほうがいいの。そんなことないと思うけど……。
 女先生は、やっぱり書き方とか、縫い物とか、刺繍とか教えてくれる。私は読本の時間が一番すき。読み方を少し習ってから、女先生が本を読んでくれるの。いつも、楽しいお話とか、わくわくするお話で、あっという間に時間がたっちゃうの。
 学校が終わった後も帰りたくないくらい。母さんは先生達は孤児の面倒もみなくちゃならないから、邪魔しないで帰っておいでっていうけど、私も一緒に遊んでる。だって、ユアンも女先生も皆兄弟なのだから、仲良くしていればいいんだって言ってくれるもの。うん、喧嘩するときもあるけどね。でも、楽しい。
 孤児達はユアンや女先生の家に一緒に帰っていたけど、去年、人数が増えたので、学校の裏に新しくおうちを建てたの。そこは、すごく広いよ。女先生と一番上の女の子達が夕食を作るから、そのお手伝いをしてりしてるの。
 ユアンは何をしてるかって。ユアンは男の子たちと畑やったり、家を少しずつ直したり、いろいろしてる。夕食は作らないよ。ユアン、私より料理が下手。女先生が台所には入らないでねっていつも言ってる。

 
 あ、鐘がなった。まずい、もう帰らなくっちゃ。本当はね、盗賊が出てから、夕方に一人でいたり、知らない人とはなしちゃいけないって言われてるの。
 ううん、おじさんは平気。だって、ユアンの知り合いなんでしょ。似ているよ。髪、短いけど、おじさんも格好いい。あは、赤くなっておかしいの。じゃ、ね。


 おしゃまな少女は勢いよく手を振ると、町の中へと帰っていく。
 剣士はその後姿を見送り、こじんまりとした町の静かな夕暮れのたたずまいを、己が守ったささやかな平和をしばし堪能した。
 頼まれた盗賊の巣は掃討できた。報告に行こうかと思ったが、夕飯時だ。邪魔はしない方がいいだろう。
 大きな影は街道を町とは反対へとたどる。
PREV | NEXT | INDEX
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送