GIFT番外編(旅路)  小さな目

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第一の目

「おじさん、誰なのさ。え、教えてくれないの。じゃ、僕もいや」
「ふーん、お菓子くれるの。もう一つ、おくれ」
「わかった。お話したら、また一つくれるんなら、教えたげる」

 幼い男の子は町外れで大きな動物のふかふかした毛皮に顔をうずめながら、話し始める。

 僕らの先生の名前はユアン先生さ。でも、みんな、ユアンって呼び捨てだよ。だって、先生がそれで良いっていうんだもの。
 ユアンはね、すごいんだよ。いろいろなことを知っていてさ、術だって使える。そう、僕らの先生はハーフエルフなんだよ。僕は人間だけど、僕の友達はハーフエルフもたくさんいるんだよ。
 え、ハーフエルフは恐くないかって。どうして、恐いのさ。先生はそりゃ恐いときもあるけど、それは僕達がいけないことをしたときだけさ。普段はすっごく優しい。それに、僕は術は使えないけど、その代わり、計算と書写は得意だもん。だから、ユアンはいつもすごいって褒めてくれるんだ。
 僕の家はここかって。そんなもんかな。僕のお父さんとお母さんは、ずっと小さいときに遠くに働きに出かけていった。そのときは、お祖父さんが元気だったんだけど、お父さん達が戻ってくる前に病気で死んじゃった。
 隣町の親戚のおばさんが引き取ってくれるって言ってくれたんだけど、僕が断った。だって、お父さんとお母さんが戻ってきたとき、僕が家にいなかったら驚くだろう。そう言ったら、ユアンがお父さんとお母さんが戻ってくるまで、一緒に暮らそうって誘ってくれたんだよ。
 うん、多分父さん達は帰ってこないつもりなんだ。父さんと母さん、出かけていったときに一回手紙がきたきり、その後、一度も手紙をくれなかった。お祖父さん、死ぬ前によくため息をついてた。きっと、僕とお祖父さん、父さん達に捨てられちゃったんだよ。
 そう言ったらさ、ユアンに怒られた。そんなことは言うもんじゃない。送ってくれた手紙を読んでみろ。お前達のことを真剣に心配している。あんまり、恐い顔していうもんだから、僕、泣きそうになっちゃった。
 そしたら、女先生が東の国に行ったなら、ここからは高い山が間にあるから、なかなか手紙が届けられないのよって。お父さん達のことを祈って、待っていましょうねって、言ってくれた。だから、僕、ユアンと女先生とみんなと一緒に待っているんだよ。
 女先生は、本当はマーテルって言うんだ。でも、みんな、女先生って呼んでいる。だって、名前呼ぶには、もったいないくらいきれいなんだよ。すっごく優しいし、ユアンは女先生の言うことは何でもはいはい聞くんだぜ。え、そうだよ。二人はとても仲良しさ。
 一応、言っとくけど、僕ほどじゃないけど、ユアンもまあ格好いいから、女先生もいつもユアンのことを見てるんだ。
 ねえ、おじさんも会ってごらんよ。本当に親切にしてくれるよ。それに、女先生の作ったお菓子はすごくおいしいんだ。おじさんがくれたのもおいしいけど、もっとすごいぜ。
 金髪の長い髪のお兄さんのことを知ってるかって。ミトスだろ。ミトスはたまにしか来ない。女先生の弟だって言ってるけど、ユアンに似ているよ。
 どうしてって言われても、よくわからない。でも、なんだか雰囲気はユアンに似てる。たまに恐いようなときがあるし、術も使える。それに、何ていうのか、一緒に遊んでって言えないようなときがある。
 ミトスがいるとさ、町の人もちょっと丁寧になるんだ。すごく偉そうな人とかが、ミトスに会いにくることもある。ユアンもたまにだけど、そういう人と話している。
 でも、ミトスはすぐにでかけて行くんだ。僕の父さんと母さんのことも探しに行ってくれたらしいんだけど、手紙を書いてくれたところにはいなかったって。
 ミトスは手紙を書いてくれる。ユアンや女先生にはしょっちゅう書いてくるし、僕達にも不思議なおもちゃとかと一緒に楽しいお話を書いてきてくれる。
 おじさんは何しているの。ミトスはお友達と会って、いろんな国に行くんだって。僕も大きくなったら、いろんな人とあって友達をたくさん作りたいな。おじさんもそういう仕事をしてるんじゃないの。え、どうしてって。おじさんもユアンほどじゃないけど、ミトスに感じが似ているよ。
 傭兵。おじさん、傭兵をしているの。それって、戦ったりするんだろう。駄目だよ。ユアンに言うと怒るよ。女先生は戦いの話をするとすごく恐がるんだ。だから、ユアンはミトスが自分の戦いの話をしたりすると、そんな話はするなって言うんだ。
 そう。おじさんは旅の人を守るだけで、戦ったりはしないんだ。よかった。ユアンは怒ると恐いからな。そういうことはしちゃいけないよ。
 内緒だけど、ミトスとユアンが喧嘩しているの見たことがある。女先生には秘密だって言われたから、黙ってたけど。ミトスがどこかに一人で行くって言ったら、ユアンがそんな危ないところへ行くなってものすごく怒ったんだ。それなのに、ミトスが余計なことを言うなって、二人して喧嘩するみたいに向かい合ったんだ。
 どうなったかって。お日様よりまぶしいくらいの光が見えて、慌てて逃げようとしたら、ユアンが僕を抱えていた。ミトスが横に立っていて、嘘みたいに優しい顔で怪我がなかったって聞いてきた。
 うん、次の日、ミトスが急にいなくなっちゃって、女先生がとても悲しそうだった。ユアンはちょっと怒ってたな。


 おじさん、この手紙をユアンに渡せばいいんだね。残りのお菓子もくれるの。おじさんはいらないの。へえ、仕事に行くんだ。
 うん、ユアンにこれを渡して、それから、手紙と。
 わかった。もう一回繰り返すよ。
 最初にこの袋と手紙をユアンに渡して、最初に袋の中を見てくれっていうんだね。それから、手紙を読んでもらうんだね。
 おじさん、おじさんも一緒に行こうよ。手紙を持ってきてくれたことを言ったら、ユアンと女先生も喜ぶよ。
 子供はたくさんいるかって?  たくさんいるよ。僕みたいにユアンのところで、父さんや母さんを待っている子供達が数人いるのさ。本当の子供?  僕達はみんな私達の子供だって、女先生が言ってるよ。
 ね、学校まで行こうよ。ふーーん、時間ないの。じゃ、わかった。おじさん、気をつけてね。お菓子ありがとう。お使いは任せて。わかってるって。必ず渡すよ。


 子供が何も知らず遺品を抱えて走っていく姿を傭兵は町はずれから見送る。すっかり、音信を絶っていたはずのユアンがどこをどう探したのか、接触してきた。
 こっそり子供の両親を探してくれるようにとの依頼を寄越したのは、二年前だ。出稼ぎに行った国が乱れに乱れ、足取りを追うのに時間がかかった。
 この数年、この星の全てがまた乱れ始めている。寒々しい予感に首を振り、背後についてくる獣と共に町を去る。
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