GIFT番外編 小さな目

PREV | INDEX

第四の目

「教会へようこそ。はい、どうされたのですか」
「なるほど、人をお探しですか。どなたですか」
「はい、ユアン先生のことはよく存じております。私の恩師ですから。もちろん、まだ、この町に住んでいらっしゃいます。家をだいぶ前に移られたんです。ご案内しますよ」


 私は昨年卒業して、この町の教会に勤めております。こんな辺鄙な町までいらしゃっるなって珍しいですね。やっぱり、学校にご用があるんですよね。こちらの学校はこの辺りでは結構有名ですからね。


 ええ、教会に就職できたのは本当に運がよかったんです。だって、ハーフエルフですからね。他の町だったら、今どきはあまり喜ばれないかもしれません。ユアン先生とマーテル先生のおかげです。
 いや、孤児じゃありません。ま、あの学校にいれば、たいした違いなんてないですよ。両親は健在ですよ。訳あって、遠くの村で暮らしてますけど。いえいえ、父がですね。エルフなんですけど、人の多いところにはなじめないということで、引っ込んでるんです。決して、私と暮らすの嫌とか、この町がだめという訳ではないんです。
 母はこの町の、ええ、もちろん学校の卒業生です。たまたま、戦乱で負傷した父を助けましてね。どうしていいのか分からないので、ユアン先生とマーテル先生のところに駆け込んだら、どういうわけか、ユアン先生のお知り合いだったんです。
 へぇ、ご存知なんですか。おっしゃるとおりで、父はヘイムダールの出身です。何でもマーテル先生の弟のミトスさんを探してこちらに来る途中、争いに巻き込まれたのです。そうなんですよ。ユアン先生もマーテル先生もミトスさんもヘイムダールとは浅からぬ縁がおありと聞いてます。
 何やら、戦のことでミトスさんとどうしても相談したいことがあったらしいのですが、なかなか、ミトスさんがこちらに寄られなくてですね。で、結局、その間、父の面倒をずっと見ていたのが、母なんですよ。
 母は息子の私が言うのもなんですが、しっかり者です。マーテル先生の信頼も篤く、ずっと学校に残って、後輩達の面倒、特に孤児の面倒をみていたんです。え、母の名前をご存知なのですか。
 学校時代の母を知っていらっしゃる。ええ、よく言われます。外見は母に似て、性格は父に似ているって。
 失礼ですけど、ハーフエルフじゃないですよね。その、結婚前の母をご存知にしては、お若く見えまして。すみません。ユアン先生に叱られてしまいますね。詮索は無用だって。
 はい、母は相変わらず元気です。ちょっと、口は悪いんですが、とにかく働き者でして、本人曰く、この町では人気者だったそうです。あ、あなたも気に入ってくださってたんですか。
 その戦さの方はですね。結局、止められなかったのですが、父はそういうわけで、母を見初めまして。私が生まれたときは、マーテル先生もユアン先生もご自分達の子供が生まれたように大喜びして下さったらしいです。
 こんな個人的な話を失礼いたしました。そうですか。母のことを気にしていただけてありがとうございます。母はですね。すぐにおばあちゃんになるから、子供を作るのはいいけど、結婚したくないってずいぶん、父を困らせたらしいのですよ。でも、父が必死に食い下がって、結局今ではあちらの村に連れて行ってしまいましたからね。
 ええ、のんびり、二人で暮らしています。私が死んだら、何もできない人だから、必ず面倒をみてやってくれと母に今から口うるさく言われてます。父は大丈夫だから、気にするなって言いますが、母の性分ですからね。
 良かったら、帰りしなにでも、会いに行ってください。


 そうですね。この辺りも私が子供のときと比べると、すっかり変わってしまいました。あの山の向こうの東の国からは難民がたまに教会へと逃げ込んでくるんですが、話を聞いておりますと、内戦が相当ひどいようですね。
 南の国との交易も随分と滞っているとか、どうしてしまったのでしょうね。南の国では疫病が流行っているという噂もありますしね。春だっていうのに、なんだか、寒々しい季節が終わらないし、本当に変ですよね。


 ミトスさんですか。いえ、この数年はお見かけしておりません。


 こちらが、お二人の家です。随分、古ぼけてしまいましてね。町ではもっといい場所へと前から申し上げているんですが、……
 あの、そちらは勝手に入るなと言われて、……。


 案内した剣士らしい体格の良い男は、その訪れを待っていかたのように内側から開いた扉へとすっと消えていった。そして、翌日には、その男が迎えだったのか、ユアンもマーテルも町から姿を消した。それが、来る大地の大異変への前哨だったとは、教会で真面目に勤めを果たすだけの彼はついぞ気づかなかった。
PREV | INDEX
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送