セント・ヴァレンタインの惨劇

PREV | NEXT | INDEX

幕間 とある場所、男二人

「ユアン、そんな恨めしそうな目で私を見るな」
 無人のレネゲードの基地に居候しているクラトスの部屋に、何とも言えない姿でユアンが現れたのは、夜もかなり更けてからだった。
「クラトス、何度やっても駄目だ。貴様のために、こんなに頑張っているのに、どうしてもうまくいかない」
 クラトスがお気に入りの青く長い髪にはべっとりと茶色の物体がへばりつき、頬にもあきらかに飛び散ったと思われるねっとりと、だが、焦げた臭いのするものがついている。それどころか、全身、むっとするほど甘い香を漂よわせ、その原因となる汚れは、飛び散ったというよりは、上から被ったような有様だ。かけているエプロンが何かの役にたっているとはとても思えない。
「ユアン、もうあきらめろ。私は気にしない。それどころか、お前が無理をしていると思うと心配で眠れないぞ」
 本当は何ができるかと思うと心配で眠れないのだが、口から、心にもない言葉がすらすらと出てくる。自分の命を思えば、この程度のことなぞ、思っていなくても簡単に言えるものだな。
「だが、クラトス、明日はセント・ヴァレンタインの日だから、大切な者に贈り物をしなくてはならない。このままでは、貴様に渡すものがない」
 形良い眉を顰め、そのサファイア色の目を潤ませながら訴える恋人を抱きしめてやりたいとは思うが、さすがに、この惨状のままではこちらも汚れる。
 仕方ない。いつもの奥の手でいくか。
「ユアン、私だって、何も用意していない。私が差し出せるのはこの身だけだ。それでもいいだろうか」
 彼がさもすまなそうに、やや伏せ目がちにして言えば、恋人も嬉しそうに彼の側により、さすがに、己の手を見て抱きつくのは思いとどまったようだ。 そっと彼の唇に文字通り甘い触れるだけの口付けを寄越した。
「クラトス。その言葉だけで十分だ」
 恋人が手作りしていたことをを忘れ、その気になったところで、駄目押しだ。
「さあ、浴室に行こう。洗ってやる」
 数日、台所(とは言えない惨憺たる場所になっているに違いない)に立って疲れきっている恋人は、その言葉に素直に頷き、彼の後についてくる。
 よし、今年も命拾いしたぞ。明日は、ロイド達も祝ってくれると言っているから、こんなところで倒れるわけにはいかない。ユアンときたら、昨日からずっと台所に閉じこもっているものだから、昨晩は相手にしてもらえなかったしな。来年からも、この手で行こう。しかも、もれなく、オプション「お風呂プレー」付きだ。
 にんまりと笑うクラトスの思惑には気づかず、来年こそは必ず成功させるぞと、後ろでユアンが決意を固めている。
PREV | NEXT | INDEX
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送