夢のお話
第六夜
風に運ばれる夜気の冷たさに彼女の微かな香が混じり、昼間の疲れを癒してくれる。日差しにほてっていた頬には心地よい。だが、砂漠の気温は急に落ちる。
「オアシスのほとりとは言えども、夜は冷える。火の側に近寄った方がよい」
彼に寄り添うように座って、夜空を見上げている彼女はわずかに身じろぎしたが、動こうとはしなかった。
「あなたと一緒に星を見ていたいの。ひさしぶりでしょ」
ほんの小指だけ触れていた彼女の手を己の手の中に収める。思ったとおり、ひんやりとしていた。
「その言葉はうれしいが、ほら、もう、お前の手は冷たくなってきている。無理は禁物だ。あちらへもどろう」
動かない彼女に、せめてもと、細い腰を抱き寄せ、自分のマントの中へと抱き込む。だが、彼女の体はどんどん冷えていく。
「お願いだ。火の側へ……」
彼の肩へ身を預けたまま、彼女は何も答えない。
飛び起きた。自分の鼓動の激しさに耳鳴りがする。暗闇の中、胸の中で打つ音がいたるところで響いている錯覚を覚える。
突然、手が穏やかに彼の二の腕に触れた。その感触に体が思わず、逃げるようにびくついた。だが、その手は暖かく、優しく彼の背に回ってくる。
「ユアン……」
聞きなれた優しい声が彼の名を呼ぶ。その声色にほっと体から力が抜けた。
「どうしたの」
「夢を見た」
まだ、おさまらない動悸に声が掠れた。