夢のお話

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第七夜

 ひんやりと触り心地のよい髪が真っ白な敷布の上に広がっている。その様は、冷たく凍りついた流氷のように深く、夏の青空のように遠く見える。
 仕事に手をとられ、部屋に戻るのが遅くなった。待ちきれなかったのだろう。恋人は彼の寝台へ勝手にもぐりこんで寝ている。音を立てないように近づき、寝台の脇に腰をおろし、穏やかな寝顔を見つめる。
 もう思い出せないほど、自らの種族の寿命を考えれば、想像もつかないだけ長い間、傍らにいるはずなのに、愛しい者の顔を見るたびに胸をゆすぶられる。そっと広がる長い青絹の髪を掬い、口付けをする。毛先から恋人の香が鼻腔に広がり、ますます、彼の胸をうずかせた。
 あちらへ横向きになっている恋人の顔は薄暗い部屋の明かりに半分陰り、まるで匠が作り上げた像のように整っている。広がる髪の数本が顔にかかっているのを除けてやろうと手を伸ばしたとたん、寝ていたはずの恋人がこちらを向いた。
「クラトス、遅いぞ」
「すまない。明日までに片をつけたいことがあったので、少々、時間がかかった。お前こそ、疲れているのか。先に寝ているなぞ、めずらしいではないか」
「貴様の香がするから、いい夢でも見られるかと思って横になったら、本当に寝てしまった」
「で、夢はみられたのか」
「内緒だ」
 そういうなり、起き上がった恋人は腕をさしのべ、彼の首へと腕を回してくる。されるがままに恋人に体を寄せれば、耳元で甘く囁かれた。
「あの星の夢を見た。青く輝いて美しかった。貴様にも見せたかった」
「ユアン、それなら、私も今見ていた」
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