夢のお話
第三夜
たまに幼い子供の泣き止まないことに途方にくれる。泣かれても何をしてよいのかわからない。おそらく、彼に訴えているであろうことを理解できない。
これが、母親が側にいればたちどころに気づくのが、本当に不思議だ。救いを求めて辺りを伺うが、彼女は買い物にでかけたばかりだ。
小さな子供が彼だけを頼るように胸にすがりつけば、放り出すこともできない。結局、心の中でため息をもらしながら、黙ってあやしてやる。やがて力の抜けた暖かいからだが彼の腕にずしりと感じるようになれば、一息つく。
こんなとき、見かけによらず、子供の扱いが上手かった同志を思い出す。荒れ果てた戦場跡の町でただ一人泣いていた幼子を優しく抱き上げ、たちどころに宥めていた。
子供の顔にかかる青く長い髪を除けてやりながら、そのことを褒めれば、人なら出来て当たり前だと笑われた。コツはと聞けば、優しい夢を見られるようにと心の中で念じればいいのだと遠くをみながら答えてくれた。
この子は何の夢を見ているのだろう。
同志に教えてもらったように、せめて彼の腕の中だけでも安らかな夢をと念じてみる。わが子はゆっくりとした寝息を彼の胸にこぼしながら、ぴったりと寄り添ってくる。
夕暮れの穏やかな日差しのなか、しびれてきた腕をこらえながら、部屋へと入る。
どうかこの子の人生が夢想のときと同じく穏やかに続きますように。