夢のお話
第二夜
冷たい雨が激しく降り、すでに夕暮れを迎え、昨日から身を隠している洞窟は暗闇に包まれている。
一層下がる気温に、ユアンとミトスは身を寄せ合っている。
「ねぇ、いつまでこうしていればいいのさ」
雨の音に紛れるだろうとは分かっていても、ミトスが小声で囁いた。ユアンはわずかに身じろぎして、座り心地のよい場所を求めたが、下から迫ってくる寒さはどこでも同じだ。
「雨さえ降らなければ、夜陰に紛れて脱出できるのに」
ミトスが繰り返した。だが、ユアンの手はミトスの体の熱を感じている。
「無理だ。雨は止むまでは動かないほうがよいし、この雨は明日も続くはずだ」
「ユアン、お前は慎重すぎるよ。僕は大丈夫だ」
ミトスはまた言い募ったが、ユアンは答えなかった。ミトスが口をきいていられるだけでも、感謝しなくてはならないだろう。決して、彼が負った傷は浅くない。
ミトスの体温を逃さないように、二人で身を寄せ合い、上からマントを固く巻きつける。入り口から忍び込む晩秋の霧雨は容赦なく洞窟の冷たさを増す。ミトスの吐く息の速さに心配は募り、だが、敵に囲まれて潜んでいるからには、外へ薬草などを探しにいくのも困難だ。
ミトスが彼の肩に頭を寄せてきた。熱い頬が彼の顎にかすかに触れた。
「ねぇ、お前はこんな僕と一緒でいいの」
突然、ミトスが尋ねる。
「お前の望みを叶えるために一緒にいる」
ミトスはその答えに納得しないかのように、頭を振った。
「ユアン、お前自身の望みはなに。お前の夢はなんなの。僕や姉さまのことばかりで、自分をおろそかにしてはだめだよ」
ミトスの声が暖かく響く。
「私の夢……。お前の夢と一緒だ」
ユアンはミトスの肩をしっかりとだき、己の胸にミトスを抱え込んだ。
本当は違う。私の夢はひどくささいなものだ。きっと、お前が聞けば理解できないだろう。だが、その夢はかなっている。お前たちが叶えてくれた。
だから、私のことは気にしなくてよい。だって、家族はそんな他人行儀なことはしないだろう。