夢のお話

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第一夜

 とても疲れているときは、夢を見ないと言われた。
「そうだろうか。疲れているときこそ、夢を見るのではないか」
と答えたら、ユアンに笑われた。
 どうやら、夢の意味が違ったらしい。ユアンはいつも現実的だ。その見かけとは裏腹に冷徹に事実を追う。たまには夢を見させてくれてもいいではないかといつでも思う。

 
 クラトスは不思議だ。あんなに冷静に周りを見て、淡々と行動するものが、どうして私を見るたびに訳のわからないことを言うのだろう。たま、クラトスの望むことが理解できず、途方にくれることがある。
 今も、夢違いだと言ったら、憮然としている。しかし、疲れているときこそ、夢を見るなど、子供のたわごとだ。疲れているのは、夢が叶わないからだ。それなのに、まだ、果たせぬ夢を追い続けなくてはならないのだろうか。

 
 二人で馬鹿なやりあいをしたせいだろうか。目の前で少しがっかりした表情を浮かべていたクラトスが何も言わずに部屋から出て行こうとする。
 わかった。わかった。私にも夢はある。クラトス、待て。声をかけるのに、立ち止まらず出て行く。
 しょうがない。すねたままにさせては、明日がやっかいだ。仕方なく起き、出て行ったばかりの男に声をかけるために、扉を開けた。


 そこには誰の姿もなかった。薄暗い廊下には何の気配もない。
 ゆっくりと後ろを振り返る。部屋には自分の痕跡しか残っていなかった。
 口からわずかに笑い声がもれ、人気のない廊下に木霊した。
 クラトス、お前が正しかった。疲れているときこそ、夢を見るのだ。今もお前が傍らにいる夢を見た。
 だが、その声もむなしく虚空に吸い込まれるばかりだ。
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