番外編(旅路)

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 ユウマシ湖は神秘の湖、広く穏やかな森に囲まれ、その様は桃源郷のようと伝えられている。そこには、我々が探している幻の動物、ユニコーンもたまに立ち現れると聞き、旅の途中に寄ることとした。道中、何が起こるでもなく、平穏に森を抜けると、確かに噂通り透明な水をたたえ、サファイア色に輝く湖が見えてきた。しかし、あれは何だ。ほとりには、その神秘の湖にはまったく不似合いな巨大な看板が立っていた。


「ユウマシ湖にいらっしゃいませ。


 !!!「清らかな乙女」求む!!!


ここは特に選ばれた「清らかな乙女」だけが立ち入ることのできる湖です。


以下にあてはまる方は決してご入場なさらないで下さい。
1.体に彫り物などを入られていらっしゃる方
2.アルコールを飲んでいらっしゃる方
3.5歳未満、60歳以上の方
4.心臓の弱っていらっしゃる方
5.その他、管理組合により不適と認められた方


             以上、ユウマシ湖管理組合」


 何故、「清らかな乙女」を求むと、こんなにでかでかと看板に書いてあるのだ。しかも、下の条件はどうやって決めたのだ。管理組合とはなんだ。
 とても、怪しい。普通、神秘の湖にこのような下世話な看板が立っているなど、常識から考えて間違っている。我々は噂にだまされたに違いない。
 なのに、何故か、前の三人はじっと読んで考え込んでいる。考えている場合だろうか。とっとと、別の目的地に進んだ方がよいであろう。


「で、誰がユニコーンを探しに行くのだ」
 しょうがないから、看板の悪ふざけにつきあうつもりで、答えて見た。
「とりあえず、私はどこをどうみても清らかな乙女には見えないから、遠慮するぞ」
 私から宣言する。さすがに、誰も異を唱えない。


「えっと、私も無理だな。まず、乙女に見えないし、それに、なんというか、清らかの定義に当てはまりそうもない」
 ユアンが妙に顔を赤らめながら、馬鹿正直に言う。いや、私から見れば十分に乙女に見えるが、確かに「清らか」ではないな。


「どう考えても、姉さましか、いないじゃないか。何も悩むことはないよ」
 ミトスが気軽に言うと、マーテルが心なしか頬染めて、うらめしげに、ユアンを見つめる。ちょっと、待て。いつの間にお前達、そういう関係になっていたのだ。ユアン、今すぐ逃げた方がいいぞ。ミトスの腕はすでに私を凌駕している。返事がないので、ミトスも不審そうに、ユアンとマーテルを眺め始める。ああ、ここで、死人を出すような騒ぎを起こすわけにもいかない。しょうがない、助け船をだすか。


「ミトス、そのだな。この看板がどうも怪しい。このような場所にあるべきものとも思えない。何かの罠で、このままマーテルが行って、危険が在ってもいけない。どうだ、お前がちょっと行ってみては。お前も、その、十分乙女に見えると思うが」
 言った途端に、ミトスがとても嫌そうな顔で私を見る。
「クラトス、お前って、そういう趣味だったの」
 はい、そうです。しかし、私は、こちらの少女(ミトス)ではなくて、あちらの妖艶な美女(ユアン)がいいのだが、とうっかり答えそうになってしまった。危ない。危ない。


「ミトス、何を勘違いしているのだ。お前の姉に何かがあってからでは遅いだろう」
 とりあえず、ミトスの弱点を押さえる。基本だ。
「それもそうだな」
 ユアンもうなずく。こういうときの連携は奴も素早い。
「気を使わせて、ごめんなさい」
 マーテルのとどめでもう決まりだ。


「わかったよ。しょうがない。じゃ、僕がまず覗いてくるよ。大丈夫そうだったら、姉さまを呼ぶからね」
 ミトスが看板を越えようとしたそのとき、なぜか後からついてきたノイシュがミトスを追い越して前に出ていった。ノイシュが進むと、突然、湖が光り輝き、前からユニコーンが現れた。あの看板に書いてあることは、何だったのだ。しかも、ユニコーンとノイシュが見つめあい、しっかりと角をもらっている。どういうことなんだ。


 呆然としている私達を尻目に嬉しげにもどってきたノイシュは咥えていた角をマーテルに渡した。
 終わりよければ、全てよしというが、それにしても、そうっだのか。
 全員がノイシュを見つめなおす。
「清らかな乙女」
 この世は、常識では測れないことばかりだ。
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