旅路 ---旅 -- 冬 --
旅路
旅 -- 冬 --
冬。
戦いは終わる気配を見せない。あちらで小競り合い、こちらで町の全滅と、悲劇が毎日繰り広げられている。冬の到来とともに、この世界の行く末を示すように毎日、悪天候が続く。風は木々の間を激しい勢いで吹き抜け、梢はその強さに倒れふす。人間も同じだ。冬の風が吹き抜けると同じく容赦なく冷酷な争いは、どちらの陣営も犠牲も増やし、憎悪は留まることを知らない。
エルフは冷え行く大地に無関心だ。人間は弱った大樹の周りで争うが、その争いが大樹をますます弱めていることに気づかない。もう、瀬戸際まで追い詰められていることを分かっているものはいないのだろうか。
自分の身を差し出すだけで、こんな簡単なことで、精霊の王が足元に下るとは信じられなかった。しかし、封印はなされ、約束は果たされた。彼を見遣るユアンの困惑した表情だけが気になった。あの輝石を手にとろうとしたときも、同じような表情を浮かべ、物問いたげに彼をじっと見つめたが、結局何も言わなかった。
ミトスはもう決断している。
手に入れた剣を振るうには時間は限られている。
躊躇っている間はない。
誰も冬が終わらないことに気づいていない。
ミトスに説得されて、マーテルが後に残ることになる。ひどく不安そうにこちらを見つめるマーテルの指に、まるで触れれば壊れる繊細な氷細工のように慎重にユアンが口付けを落としていた。最後の指が離れたときに、あの二人の目が見交わしたものはなんだったのだろう。
ユアンと共にミトスの背後を守るために、デリス・カーラーン間近の地へと付き従う。
これが、真の冬の始まりだった。