セント・ヴァレンタインの惨劇
終幕
「よう、遅くなってすまん。今日は大漁節だ。ついでに、これも拾ってきたが、客人じゃないのか」
ダイクが片方にイノブタを、片方の肩に黒こげのユアンをかついで戻ってくる。
「あやうく、鍋の材料かと思うところだったぞ」
ダイクが豪快に笑いながら、そのまだ煙っている物体を椅子に降ろし、クラトスの方へ目をやる。子供達のせがむような目線に、遥か昔と同じく誰にも見せたくない素敵な贈り物を着用させられたクラトスは、このまま二階のロイドの部屋へ逃げ込もうと階段を上がりかけ、予想外の言葉に凍りつく。
「あんた、それ、すごく似合うじゃないか。ロイド、たいしたものだぞ。お前がクラトスさんの探し物が終わったら、わしにも一つ頼む」
ドワーフに育てられたばかりにという恩知らずなフレーズがクラトスの脳裏に浮かぶ。ロイドは任せとけとばかりに目を輝かせ、答える。
「親父の分に、父さんの替えも二、三枚作ってやるよ」
横で、黒こげの物体がその言葉に嬉しそうにうなずき、天使の耳にだけ拾える小さな声で
「クラトス、良かったな。皆がうらやましがっているぞ」
と、つぶやくのが聞こえる。
皆とは、このドワーフと悪魔のハーフエルフ三人組の生き残りのことか。
お前とドワーフの服装の好みは、私には理解不能だな。
クラトスが弱った体を押してバットの素振りを始め、イセリアの森で別の惨劇が繰り広げられるのも間近だ。