番外編(収束)

PREV | NEXT | INDEX

そこにある危機

 たまには休みでもとるかと、イセリアの森近くのクラトスを訪ねたら、コレットとジーニアスにせがまれて、ノイシュと散歩にいったとのことで、部屋はも抜けの殻だった。どうせ、すぐに戻ってくるだろうと、テラスから外を眺めていると、いつの間にか、ロイドが背後に近づいていた。
「お前は、一緒にいかなかったのか」
「ああ、親父の手伝いで手が離せなかった。そしたら、父さんが代わりにそこの川まで一緒に行くと言ってくれたんだ。別にあいつら二人でも大丈夫だとは思ったんだけど、いつも、部屋にいるのも退屈だろうし」
「クラトスはああ見えて、子供が好きだからな。喜んでいるんじゃないか」
「うん、俺も、ぼんやりだけど、父さんの背中とか、一緒に手をつないでくれたのとか、思い出してきた」
「それは、良かったな。あいつに話せば、顔には出さなくてもきっと喜ぶぞ」


「なぁ、ユアン、聞いてもいいかな」
「なんだ。遠慮する仲でもないだろう」
 ロイドは一緒に手摺にもたれながら、外の景色を眺める。
「その、父さんとつき合う前は、あんた、すごく長い間、あの大樹の、えっと、マーテル様と一緒だったんだよな。子供とかいなかったのか」
 自然に尋ねられる、しかし、ひどく重い問いに思わずロイドの顔を見る。
「やっぱり、変なことを聞いて悪かった。ほら、ジーニアスとかあんた達の子供でもいれば、話が合うかなって思ってさ。俺は馬鹿だし、コレットも人間だろ。身近にハーフエルフといえば、ディザイアンばかりだったし……」
「子供か。残念だが、いないな」
 夢のような話だが、万が一我が子がいたとして、遥か昔に成長しているに決まっているだろうが。さすが、ロイド。何も考えていないな。これでは、お前の父親はこの星から離れられないぞ。
「そっか。父さんの話じゃ、ずっと戦いが続いていたらしいから、子供を作るひまもなかったのか」
 いや、犬猫じゃないのだから、そういういい方はないだろう。クラトスの息子とは思えない直裁な質問に、さしものユアンも頭をかかえる。
 しかし、思い返せば、作るヒマどころか、いつも邪魔をされていた。そういえば、そうだ。クラトスもミトスもいない今、愚痴の一つを言っても罰はあたるまい。
「戦いだけが理由ではない。確かにヒマはなかったが、それ以上に、ミトスとクラトスに散々、作る邪魔をされていたのだ」
 話しているうちに、様々な思い出が蘇ってくる。
「そもそもだな、少しゆとりが出たと思うと、どういうわけか、宿屋の部屋が余っておらず、いつもクラトスと一緒に閉じ込められていた。宿の手配はクラトスだったからな。ミトスと二人で画策していたに決まっている。
 大体、夜、たまに二人で茶など飲んでいると、すぐにミトスが姉に泣きつきにきて、大騒ぎになったしな。どうにか、ミトスを追い返せたとほっとして、私がマーテルと……その、ちょっといい雰囲気になったと思うとだな。クラトスがもう話がすんだはずの明日の予定を蒸し返しにくるし」
 ユアンが昔の思い出を綿々と愚痴っている横で、ロイドも同情半分、感心半分で聞いている。クルシスって、古代大戦を終わらせた英雄じゃなかったのか。ひょっとして、同じ名前の別の人たちがいたのだろうか。
「たまには、外でと、いや、外で星でも見ようと出て行けば、なぜか、クラトスが先回りでもしたかのように、すまして立っていたものだ。戻れば、ミトスがどこにでかけたのだと、宿屋の入り口に待ち構えているしな」
 さすが、父さん。いつも、思いがけないときに現れて、びっくりさせられたけど、昔から、ああいうことは得意だったんだな。クラトスが聞いたら真っ青になりそうな感想をロイドは思い浮かべる。彼も実体験しているだけに、ユアンの気持ちがわからないでもない。
「それにだ、私はクラトスと違って、我慢というものを知っているから、うっかり、いたしたりはしなかったしな。ロイド、大変なのは女性なのだから、その気持ちを尊重しないといけない。自分だけ、いい気持ちになってだな……」
 ふと見ると、横にいたはずのロイドがそそくさと彼から離れようとしている。首筋によく知っている冷たく鋭い金属の感触がある。
「ユアン、私と違って、どういう我慢を知っているのだ」
「クラトス、危ない真似はするな。散歩は楽しかったか」
「ユアン、ごまかすな。ロイドに何を吹き込んでいた」
「クラトス、何か勘違いしているようだな。私はロイドに尋ねられたから、ちょっと、思い出話をしていただけで、貴様のことをとやかく……」
「ロイド、お前もこちらに来なさい。二人に話がある」


 ダイクの家の二階から、今日もクラトスの説教が聞こえる。
「また、あの二人がやられているよ。ロイド、本当に馬鹿だな」
「クラトスさん、耳いいんだから、あんな大声で話していたら、全部聞こえちゃうよ」
「コレット、ロイドに教えてあげなよ。ユアンさんに質問すること自体が、危ないことなんだって」
「でも、クラトスさんも、いつも、ユアンさんの言うこと、こっそり聞いているよね」
「あのお説教は、やっぱり、照れ隠しなのかな。大人って、わけわかんないなぁ」
 
PREV | NEXT | INDEX
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送