クルシス十二ヶ月

PREV | INDEX

師走

 師走とは名ばかりの暑さの中、一行はようようにオアシスの町へとたどり着いた。 埃っぽいだけの砂漠の町だと思っていたが、 一歩足を踏み入れると、予想外の人込みだった。目抜き通りと思しき、店が連なる通りにはけたたましく売り子の声が響き、 数歩進むにも、人にぶつかりそうになる。しかも、師走とは裏腹の無縁の熱風が砂漠から 吹きわたり、人いきれの熱をさらに煽り立てる。クラトスは深く息を吐きだし、空を見上げた。
 単調にも単調な砂ばかりの風景を何日もかけて踏破した。直前の小さな村で整えてきた準備は 砂漠の横断にぎりぎりであった。後一日距離が長ければ、何が起きたかわかりはしない。 常に慎重に計画を立て、自らの行動の検討を怠らない 剣士は背後を振り返った。砂漠で息絶え絶えだった仲間達もオアシスの町に入り、 どうにか元気を取り戻したようだ。婚約者を支え、思わし気に彼女の様子を気遣っていた 青年は今は穏やかな表情を取り戻している。よろめくように、それでも必死に前へと足を進めて いた姉弟は、二人で手を繋ぎ、オアシスの町の喧騒を楽しそうに眺めている。 萎れかけた野の花が新鮮な水に放すと再び頭を持ち上げる。 そんな様がクラトスの脳裏に浮かんだ。
「宿でまずは埃を落とそう」
 クラトスの声に三人とも頷いた。 ゆっくりとマーテルが歩む脇に、ユアンが寄り添っている。 その前後をミトスがあちらの店、こちらの店をのぞき込み、姉に向かって語り掛ける。 マーテルがふと立ち止まり、なにかを指さした。白く優美な指先をユアンが見つめ、 マーテルに微笑みかけた。店番も目立つ二人に気づき、声をかけている。 姉の脇にミトスが縋りつき、しきりにユアンに訴えている。 店番に話しかけるユアンの腕をマーテルがとり、ゆっくりと首を振った。
 砂漠を超えるための準備で、仲間の資金は底をついていた。クラトスが近寄ろうとする間にも ユアンがちらりとこちらに目を寄越し、再度ミトスへと声をかけている。店番へと申し訳なさそうに頭を下げ、マーテルが ミトスを店先から引きはがした。ミトスは後ろを振り返りつつ、クラトスの方へしぶしぶ足を向けた。
「今日の宿が先だ」
 クラトスの言葉にミトスは後ろの店を振り返りながら、大人しく前へと進む。四人は溢れる人を右に左によけながら、 町はずれの宿へと足を運んだ。一週間近く砂漠を渡ってきたのだ。せめて、マーテルだけでも 砂埃の旅装を解かしてやらなけければ、つらいだろう。今朝がた、日が昇ると同時に焼け付く砂の上を 唇をかみしめ、ユアンの手に縋りながらマーテルが歩いていた。一言も愚痴はこぼさない姉の横で ミトスが励ましていた。 今も、ユアンとマーテルは手をつなぎ、ユアンがことさらゆっくり歩いているが、 さきほどの悲壮感はない。ミトスがクラトスの横へと並んだ。
「ほんと、無事に着いてよかったよ」
 ミトスが後ろの二人を振り返った。
「ああ、そうだな。マーテルにはかなり無理をさせてしまった」
「クラトス、お前のおかげだ。隊商の跡が目に入らなければ、また道を迷うところだった」
「我々は運がよかったな」
 クラトスの言葉にミトスが笑った。
「まあね。生きてここまでたどり着いたのだから、運がよかったのだろうね。年内に ここまで来れば、イフリートの遺跡は近い。精霊と契約さえ結べれば、来年には再び・・・あの国に戻る」
 そこで、ミトスは言葉を切り、雲一つない青い空を睨みつけた。
「精霊の契約はともかく、支援者を探さないとね。師走だし、人が多いし、なにか考えたいけど」
 ミトスは大きく息を吐きだした。
「手元に何も残っていないのだろう。ユアンは何も言わないけれど、厳しいことはわかっているよ。もう、今年も終わりなのに、姉さまに聖夜に何も贈れそうにないや」
「なにか良いものが見つかったのか」
 クラトスが尋ねると、ミトスは苦笑いを浮かべた。
「ユアンが駄目だってさ」


 宿の中まで砂がついてくる。砂漠の宿はどこも一杯で、クラトスに姉弟を預け、数軒ある宿屋 の間で ユアンが交渉に走りまわっていた。どうにか、町の端にある古ぼけた宿屋に空きが見つかった。 細かい埃が立ち上る小さな部屋を借りる算段をして、マーテルとミトスに休むようにと告げ、 ユアンはすぐに宿を出て行った。ここでは水の一杯にも 金が必要だ。クラトスが何のあてがあるのかと聞く間もなく、ユアンの姿は雑踏へと 吸い込まれた。 マーテルは力なく寝台に腰掛け、横でミトスが小さな扇で風を送っていた。 クラトスは小さな部屋の片隅で剣の手入れを始めた。
 砂漠の町は強い日差しに照り映え、宿の窓からは遠くにオアシスが見える。 オアシスを取り囲むようにナツメヤシが生え、緑の葉がわずかな風に 揺れている。クラトスは見るともなく、青い髪の長身の男がオアシスの 向こうにある天幕へ吸い込まれる姿を追った。何の商談をする気なのだろうか。 このところ、四人の動きは停滞しており、ユアンもさして有力な情報を 集めているとは思えなかった。
「クラトス」
 休んでいたはずのミトスが彼の名を囁いた。
「姉さまが休んでいるから、ここで見張っていてくれるかい」
「承知した。どこにいくのだ」
「うーーん、姉さまが覗いていた店をもう一度みてくる。なんたって、師走だもの」
 生活の算段は誰がするのだ、と喉まででかかった。だが、着いた日に言うことでも あるまい。クラトスは鷹揚にうなずき、少年を送り出した。 入れ違いに、ノイシュがすっと部屋に入ってきた。
「あれ、お前はどこにいたのだ。今朝から姿が見えないと思っていたら、先に 来ていたのか」
 クラトスの声にノイシュは軽く首を傾げ、そのまま、マーテルが寝ている ベッドの下に横たわった。


 とっぷり日が暮れ、夕食の頃合いとなった。数刻前にミトスはがっくりと首を垂れて戻ってきたが、 ユアンはまだ戻らない。休んでいたマーテルも身づくろいを整え、 三人はノイシュの周囲で砂漠の思い出を語り、ユアンを待った。
「ユアン、遅いわね」
 マーテルが首を傾げた。
「どこに行くか、ユアンは言ってなかったなぁ」
 ミトスが嘆息し、クラトスも首を傾げるばかりだ。 あの後、天幕のあたりをそれとなく見ていたが、ユアンの姿は目に入らなかった。
「まあ、こちらに来る準備は奴がしていたから、なにかここでも当てがあったのだろう」
「そうよね。ユアンはいつでも私たちのために頑張ってくれるもの」
 マーテルも不安そうにため息をこぼした。
「私がこんなに迷惑をかけるから」
「姉さま、どうせユアンのことだ。どじってオアシスの池にでも落ちたんじゃないの」
 ミトスが姉の肩に顔を寄せ、いつもの調子で答え、姉をなぐさめようとした。 ノイシュがくーんと鼻を鳴らし、古宿の廊下がかすかに音を立てた。 クラトスが片手を剣に伸ばすと、足音に気づいたマーテルが首を横に振った。
「ユアンだわ」
「すまない、遅くなった」
 扉があき、ユアンが入ってきた。
 三人は唖然としたまま、彼の姿を見つめた。
「なんだ。夕飯を食べにいかないのか」
 ユアンは三人の沈黙には答えず、すたすたと部屋を横切り、わずかな荷物がかけてある フックの上に彼のマントをひっかけた。 彼の動きにあわせて細かな砂埃が立ち上り、部屋のランプが瞬いた。
「ユ、ユアン・・・」
 マーテルはそこで口を押えた。
「なにが起きたのだ」
 クラトスがユアンの方へ片手を伸ばし、また、脇へと下した。
「お前、ユアンだよね」
 ミトスも呆然と立ち上がり、脇の寝台へまた腰を落とした。
「皆、夕飯に行くぞ。一週間ぶりにまともな食事だ」
 ユアンは三人の反応には無頓着に部屋を出ようとした。 クラトスはもう一度手を伸ばし、どうにかユアンの腕を引いた。
「説明してくれ。強盗にあったのか」
「は・・・」
 今度はユアンが首を傾げた。
「私がこんな場所で強盗にあうわけなかろう。貴様になんの説明が いるのだ」
 それまで、口を押えたままにしていたマーテルがユアンに飛びついた。
「ユアン、とても素敵よ。見違えたわ」
 クラトスは間違ったことを聞いたかのようにマーテルを見やった。 婚約者の言葉に滅法弱いユアンは、もちろん、マーテルの褒め言葉に頬を紅潮させ、 腕をマーテルへと回し、抱きしめようとした。
「姉さま、ユアンになんてこと言ってるの」
 二人の間にぐいと入り込んだミトスが叫んだ。
「お前、その髪をどうしたんだよ」
 ユアンへと向かい、ミトスが詰問した。
「どうしたって・・・。ああ、私の髪か。売ってきた」
 あっけらかんとユアンが答えた。
「売った」
 クラトスが要領を得ないように繰り返した。 男二人の反応などどこ吹く風とばかりに、婚約者に褒められたユアンが髪の短くなった後頭部に手をあてて、 マーテルを見下ろしている。
「マーテル、お前が気にいってくれて、嬉しいよ」
 ユアンは前髪を軽くおろしている以外、どこぞの国の軍人かと思うほど短く髪を切っていた。
「本当に素敵よ、ユアン」
 驚いて口をあんぐり開けているクラトスとミトスの前で、マーテルが繰り返す。 ハーフエルフの美意識は私と全く異なるようだな、と頭を振るクラトス。姉さまは お前に渡さないぞとばかりににらみつけるミトス。間で四人の顔を順番に見て、ノイシュも 首を振った。
「いや、その、マーテル、そんなに褒めてくれなくてもいいのだよ」
 間に立ちはだかるミトスをさりげなく押しやり、ユアンがマーテルの肩を抱き寄せた。
「さあ、夕食にいこう」
 もちろん、マーテルはうっとりとユアンに寄り添い、毒気を抜かれたミトスとクラトスは 一瞬、立ち尽くした。我に返ったクラトスがミトスの肩をたたき、二人は渋々と 仲の良い二人の後ろを追った。ノイシュはあきれたと ばかりに鼻をならし、床へと長く伸びた。


 一階にある食堂は香辛料のかおりと肉を焼く煙がたちこめ、 意外にも人でごった返していた。地元の人に愛用されているようで、 この地方の民族衣装を来た人たちがてんでばらばらに座っている。クラトスは さっと客を見渡し、奥の引っ込んだ席を確保した。初めての土地では 静かに目立たぬことが重要である。
 宿の主人にユアンが話をつけていたのだろう。 早速、食事が運ばれてきた。夕飯はこの地方特有のさらりとした穀物に香料の効いたスープが添えられ、 この一週間、お目にかかることのなかった香ばしい焼き肉が供された。 遠慮なく肉をかぶりつくミトスに、姉が笑いかけている。 ユアンは婚約者のためにと、甲斐甲斐しくスープを取り分け、 水の入ったグラスを渡している。あまりにお馴染みの行動をとる三人だが、 揺れる青い髪がないことだけが不自然に見える。
「どこへ行っていた」
 地方特産の蒸留酒を煽り、クラトスはユアンに尋ねた。
「出発する前の村で、ここトリエットの店を紹介してもらった。なにせ、このところ 手元不如意なので、不要になった装備や術の本を売ろうと考えていたのだ」
「それがどうして、お前の髪を売ることになる」
 小さな真鍮の盃に蒸留酒を注ぎ、ユアンに渡す。ユアンは軽く盃を持ち上げ、 一気に飲み干した。
「どうも、村で聞いた店の位置が違ったらしい。池のほとりの天幕に 入ったら、こちらの服を中心に扱っている店だった。さすがに術の本を 売るわけにはいかないし、あちらも武器は扱っていないようでな」
 そこで、ユアンはクラトスに身を寄せ、囁いた。
「マーテルにとても似合いそうな民族衣装があって、思わず買ってしまいそう になった。生憎、余裕がなかった」
 ユアンが残念そうにつぶやく。クラトスは思わず酒に咽た。隣のテーブルにも、薄いベールをかぶった女性達が 楽しそうに食事をしている。彼でさえ目を奪われる華やかな色彩の民族衣装を着ている。 それだけなら、まあ美しいですむが、過去に彼の育った王宮なら下着と呼ぶほうが適切なほど体の線を 強調する短い胴衣に へそを出し、腰に浅く透ける素材の腰巻を纏い、目のやり場がないほどだ。
「ミトスに殺されるぞ」
「もちろん、私の前だけだ。クラトスにだって見せてやらない」
 酒の入ったユアンが調子よく答える。何を想像してる。お前、赤くなっているぞ、と クラトスは言いかけたが、ミトスの耳に入っては初日から大騒ぎになる。
「なにが、お前の前だけだって」
 そういうことだけは耳をそばだてるミトスが聞き返した。
「あ、いや、マーテルに聖夜の贈り物を考えていただけだ」
 いかにも、とってつけたようにユアンは返答し、再び、酒を飲み干した。
「その店で髪を扱っていたのか」
「いやあ、まあ、そうだな」
 ユアンがもそもそと答えた。
「何を隠している」
「クラトス、別に資金は手にはいったのだから、いいじゃないか」
 気まずそうにユアンがそっぽを向いた。


 ざわざわとしていた食堂の空気たぴたりと止まった。いかにもな 高価そうな民族衣装をまとい、武器を持った男が数人の従者を連れて入口に立っている。
「青い髪の女を探せ。太守様からの命令だ」
 その言葉に再び食堂がざわめいた。
「青い髪の・・・女・・・」
 クラトスは横に座っているハーフエルフの様子を伺う。
「誰のことやら・・・」
 ユアンは平然と三杯目の蒸留酒を飲み干し、マーテルの小皿に穀物を盛り、 肉を小さく切り分けている。 無粋な武器の音と高い靴音が周囲を響くが、青い髪の女と思しき人物は 見つからないようだ。卓ごとに男たちが検分する間、ひそひそと 会話が交わされる。
 ついに、クラトスとユアンの背後に数名の男の影が落ちた。
「ここの卓にもいないか」
 さすがに、クラトスとユアンの背中を見て、女性と思う輩はそうは いないだろう。二人とも、この地方の男よりははるかに体格がよい。
「お前たち、よそ者だな。いつ着いた」
「昼を少し過ぎたくらいだな、クラトス」
 ユアンの声が幾分低く、同意を求めてきた。
「ああ、その通りだ」
「青い髪の女を見かけなかったか。砂漠を越えてきたと言ったらしい。 お前たちは一緒にいなかったのか」
「いや、我々四人だけだ」
「見かけたら、太守の宮殿まで知らせてほしい。その女に後宮で 雇用すると伝えてくれ」
「承知した」
 ユアンのあっさりした返答に、邪魔したなの言葉もなく、男たちは去っていった。
「そういう理由か・・・」
 クラトスは深くため息をついた。
「なんか、勘違いしていないか」
 ユアンがむっとしたように反応した。
「太守をだますのはさすがにまずいと思うけど。イフリードの契約をネタに恩を売るはずだったよねぇ」
 ミトスがユアンを詰った。
「だから、私は騙していない。その、なんだ、マーテルに似合いそうな装束があったので 鏡でみていたら、相手が勝手に勘違いしただけなのだ」
「へえ・・・」
 まったく信じていないとばかりにミトスが相槌を打つ。
「まあ、ユアンたら、そんな無駄遣いはだめよ」
 マーテルがおっとりとたしなめている。
 クラトスも薄暗い天幕の中で何があったのだろうと、いぶかしげにユアンを見た。
「勘違いしてほしくない。ここの太守の年齢を知っているか」
「確か・・・」
 三人が言いよどんでいると、ユアンがぴしりと答えた。
「下調べはきちんとしなくては駄目だ。9歳だ」
「お前、9歳の子供に・・・」
 ミトスがユアンの額の皺を増やした。
「子供、大好きだわ。きっと、太守様もかわいらしかったのでしょうね」
 マーテルの反応にすぐに機嫌を直し、ユアンがにこりと笑って頷いた。
「そうなのだよ、マーテル。天幕の隅からかわいい子が入り込んで、 私の膝に乗るから、つい遊んでしまった。そしたら、帰りしなに、 招待してくれると言うから、天幕の外を覗いたら、あいつらが立っていた。 子供がなんのかんのと訴えている言葉を聞いて、慌てて裏口から逃げだした。 さすがに私の顔までは覚えていないと思うが、念のために髪は切り落した。 あいつらには分からなかったし、 いい値段になったので、一石二鳥の効果だ」
 確かにこの地方は、男性の髪は極端に短く、女性は長い髪を ベールの下に隠している。ユアンが、ミトス、わかったかと 兄弟のように額を弾いた。痛いよ、と言いながら、ミトスがユアンにからむ。
 マーテルとクラトスは目を見かわして笑い、ミトスを宥めた。
 意外にも、ユアンは子供にもてる。今も前でミトスに 構われている。というと、ミトスは怒るだろうが、 人への優しさを子供は敏感に感じ取るものだ。クラトスは 短いユアンの髪にちらりと目を走らせ、盃をゆっくりと 傾けた。


 久々に心ゆくまで食べ、四人で師走らしく夜遅くまで賑わう市場へと繰り出した。
 ランプで明々と照らされる店先に、この地に特有の乳白色の石(アラバスター)を使った 置物や装身具がずらりと並んでいる。かわいらしい猫の置物をミトスが 持ち上げ、姉に見せている。マーテルはおっとりとした笑顔でそれに答え、 その指先はまだ迷うように小物の上を彷徨っている。 多少の資金は得られたとしても、贅沢は禁物だ。マーテルの指は 美しい置物や壺を素通りし、ごく小さな玩具を撫でた。
 そんな彼女の肩を 抱き、ユアンが優しく彼女の手を握る。 何と見上げるマーテルの目をのぞき込み、ユアンは彼の手の中にある 華奢な手を裏返し、小ぶりだが洒落た丸い器を彼女の手の平に乗せた。 砂漠を横断しても白いままの手に、金で縁取られた雪白の器がお似合いだ。少し贅沢だが 品のよい容器はマーテルに誂えたように優しく、甘い香りが立ち上る ようだった。
 ぱっと顔を綻ばせ、マーテルがユアンの顔を見上げた。いつもの 表情を隠す長い髪がないから、ユアンの頬がかすかに紅潮し、 青い目がマーテルの喜びを映して歓喜で輝く様がランプに照らされる。一幅の絵のような二人はぴたりと 寄り添い、冷やかし半分の売り子の口上を聞いている。 店先の灯に浮かび上がる美しい二人に、砂漠の夜空を彩る銀河が瞬き、 周囲の人々の目を引き付ける。誰がこの二人を別つことが出来るだろう。
 二人の姿に目を奪われていたクラトスは我に返り、横で飛び跳ねている ミトスを連れて、大剣を扱う店へと向かった。
 師走の忙しさを忘れる 温かいひと時は、漂う香辛料と焼き肉の香に彩られ、オアシスの町の 喧騒と共に過ぎる。何気ない日常の生活の一コマでありながら、二人にとって、 いや、四人にとって貴重な短い時間。この平穏を知るからこそ、 明日からまた始まる厳しい道程へと踏み出せる。
PREV | INDEX
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送