転回

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春雷

 それは、いきなり告げられた。
「クラトス、今度の神子の護衛にはお前が行って欲しい。テセアラではない。あちらの神子はもう不要だ。だから、あちらの不穏分子はもうほっておいてよい。シルヴァラントの神子は今までになく姉さまの適合率がとてもよいのだ。例の集団に損なわれるわけには行かない。直接、こちらに連れてきてもいいのだが、あちらの世界の手前、手順は踏んでおいた方がいいだろう。最終的に失敗するとも限らないしね」
 ユグドラシルはそう言いながら、いつも通りににこりと笑う。
「ねぇ、ユアン」
「ミトス。何度も繰り返すようだが、器になれるかどうかは、適合率だけでは駄目なのだ。人は全て本質的に異なる。あまり、期待するとがっかりするぞ」
「まるで、姉さまが戻らなくてもいいような言い方だね」
 ユグドラシルはねめつけるように、彼を見る。
「そのようなつもりではない」
 もちろん、そのつもりなのだ。適合するなどということは永遠にありえるはずもない。それは、彼が許さない。しかし、クラトスはこの護衛を受けるのだろうか。やっかいな話だ。
「クラトス。いつものことに比べれば、何ということのない仕事で悪いけど、頼むよ。お前もたまには血の臭いがしない方がいいよね」
 一瞬、クラトスの目がさ迷い、ユアンの方をみやり、すぐに俯く。
「承知した」





「あ、雷だ」
 子供達は慌てて山道を駆け下り、傍の掘っ立て小屋の下へと入り込む。
「ロイドが無理いうから、降ってきちゃったじゃないか」
「ううん、私がいけなかったの。私があのお花を取りに行こういったから、奥まで行くはめになっちゃたんだよ。ごめんなさい」
「わりぃ、わりぃ、コレット、謝るなよ。ジーニアスの言う通りだ。あそこで俺が道に迷わなければ、村に帰りつけたよな」
 三人の子供達は、光る稲妻に目を覆い、互いに身を寄せ合う。埃臭い農器具が雷に浮かび上がり、大げさな影を作り、彼等の恐怖を一層あおる。外では、春の雨が激しく降りだし、三人はみなで手をつなぎあいながら、息を殺している。



 嵐はすぐそこまで来ている。
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